「橋本治と内田樹」(筑摩書房)
内田樹さんは、世の中の出来事に対して、とても現実的な論考を、いつもわかりやすい例えを用いて、語ってくれるので、処女作の「ためらいの倫理学」以来、かなりの数を読んでいます。今回は橋本治さんとの対談集。
橋本さんのことを「公な人」と評しているのが、印象に残りました。橋本さんは、「桃尻娘」で、第29回小説現代新人賞佳作を取った瞬間に、「やりはじめたこのことをちゃんとやらなければならない」と決意されたとのこと。その「ちゃんとやる」というのは、橋本さんにとっては、「「公」のものだから、「自分がやりたいだけで済むもんじゃないよ」という感覚なのだそうです。今迄、先人たちが作り上げてきた文学という世界に敬意を表し、その世界に自分が新たに積み上げていくことできるものは、何か。またその意味は何なのかを考えていくという態度のことであると、僕は受け止めました。
創作的な仕事をする時に、「やりたいこと」だけをエンジンに進めて大きな仕事を成し遂げることは、もちろんあるし、個人としてのそのエネルギーの大きさをとても羨ましく思います。ただ、僕はどちらかといえば、社会と自分という関係の中で、その仕事を問い直すスタンスをとる人の方が好きなんだと、再確認しました。